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太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

2つの突き Part 2

投稿日:2008年5月14日

まず1つ目の喧嘩。

24~25歳頃だったと思うが、そのときは小さなスナックでチーフ(バーテン)をしていた。
僕の記憶では確か冬で、クリスマス時期だった。
夜も更けてきて、お客からタクシーを呼んで欲しいと頼まれた。
いつもならタクシー乗り場付近に呼ぶのだが、その時は乗り場付近の道路が混み合っていて車がなかなか動けないため、直接店近くの通りに入ってくるとのことだった。
そして、ママに頼まれ、タクシーのところまでお客を送っていくことになった。
このとき働いていたスナックは、初めて勤めた店と違って、料金も安く気を張る店ではなくて、若いお客も多かった。
送って行こうとしたのも30歳前後の若い人だった。

タクシーが入って来る通りまでその人と話しながら歩いていると、一人の男が絡んできた。
男は通りの角に立って、ビール片手に何か食っていたが、酔っている風では無かった。
「新地で飲んでボーイに送ってもらってええ身分やな」
というようなことを、独り言のような口調で、けれどこっちに聞こえるように言ってきた。
年齢は30代前半くらいだろうか…。
ヒゲヅラで、頬や顎を濃いめに生やしていた。
背は僕より少し低いくらいで、痩せ型。
黒っぽい服装で、ガラの悪いヤツだったが、特にヤクザやチンピラといった感じではなかった。
最初は無視していたが、タクシーが来るのを待っている間に、近づいて来て似たようなことを繰り返し言って絡んできた。
一緒に居たお客はまだ血気盛んな様子で、何度か言われるうちに、
「何やお前!しつこいな!」
と反応してしまった。
「やめときましょ。タクシーももう来ますよ」
と、僕はお客をなだめたが、言い返されたことで相手もまたそれに反応し、さらにエスカレートして絡んできた。
次第に僕も面倒になって、
「にーさん、ええ加減にしときや。後で相手したるから待っとき!」
と返してしまった。
するとヒゲヅラは、
「おう、ええ度胸やな。やるっちゅうねんな!」
と声を荒げた。
僕は平然と、
「やったるやったる。相手したるから、そこで待っときや」
軽く返して、やっと来たタクシーにお客を乗せた。
お客はタクシーに乗るとき、
「チーフ大丈夫か?オレも残ろうか?」
と言ってくれたが、
「大丈夫です。心配せんと乗って下さい」
と言ってドアを閉めた。
車が動き出して少し見送ってから、僕はそいつの方を向いて、
「で、どうする?どっか行くんか?」
と言った。
ヒゲヅラは、
「おう。後悔すんなや!」
と、ニヤニヤしていた。
僕らは近くを流れている堂島川の方を向いて歩き出した。

歩きながら思った。
(こいつ、自信たっぷりな感じを装っているけど、ハッタリだろう…)
体つきや立ち振る舞いを見ていると、何かの心得がありそうにも見えないし、喧嘩慣れしている風でもない…。
(試してみるか)
その間にもヒゲヅラはブツクサと威嚇する言葉を独り言のように吐いていたが、僕は道の隅に立てかけてあったトタンの看板を見つけると、
「やかましい!お前こそ足腰立たんようになる思うとけ!」
と言って、思い切り蹴った。
バァ~ンッ!
と派手な音が鳴った。
「それか堂島川で泳ぐか!?」
ヒゲヅラは黙ってしまった。
少しまずいと思い始めている感じが伝わってきたので、僕は、
(やっぱりな…。適当に勘弁してやろうか…)
と思っていた。

だが、次の通りに差しかかるところで急に、客待ちをしているタクシーの運転手に駆け寄って、
「おい、助けてくれ!警察呼んでくれ!絡まれてんねん!」
と騒ぎ始めた。
(げっ!何やコイツ!)
騒ぎが大きくなるのはまっぴらだ。
「お前!自分から絡んで来て何言うてんねん!」
と、襟に手をかけて引っ張った。
そこは、今は別のビルが建っているが、当時は毎日新聞の社屋があり、裏は集配所にもなっていて、学校などにもあるような斜め格子状の金網のフェンスで囲われていた。
そのフェンスがある道沿い。
僕はヒゲヅラと向かい合うと、
「お前が店の客に絡んできて、オレにも喧嘩売ったんちゃううか!?今さら何じゃ!」
と、周りで見ている人にも事情が解るような言葉を浴びせかけながら、胸や肩のあたりに手をかけて、文句を言いながら手のひらで押すように、何度か小突いた。
実はこのとき、
相手に触ってみることで距離感を掴みながら、ぶん殴れるかどうか確かめていた。
それに一方的に手を出すのは嫌だったので、ヒゲヅラがカッとなるのを待っていた。
そして意図通り、
僕に小突かれてプチッと切れた。
一瞬、怒り露わに、攻撃的な表情になった。
ヒゲヅラが右手を上げようとした瞬間…
自分でも驚くほど絶妙なタイミングで、僕の左拳が炸裂した。
まるでホームランを打ったような手応え。
拳や肘に、ジーンという感触が残った。
映画でブルース・リーが敵役を殴った後、震える拳を見つめるシーンのごとく。
ヒゲヅラは後ろ向きに飛んで金網に受け止められ、そのままズルッと尻餅をつくように落ちた。
軽い脳しんとうを起こしているのがわかった。
僕はさらに数発、腹に蹴りを入れ、すぐに立ち上がれないようにして、
「アホンダラ!自分の行いを反省せぇ!」
と言い放って、店とは違う方向に走り去り、遠回りして店に戻った。

店のあるビルまで戻って気づいたが、手が血まみれになっていた。
店に帰るとすぐ洗おうとしたが、ママにそれを見られて、事情を説明したが、店が終わってからもしばらく小言を聞くハメになってしまった。。
血は相手の血で、僕の手は無傷だった。
どうやってついたのだろう…。。

後日、タクシーに乗せたお客がまた店に来たとき、
「この前、チーフが絡んできたヤツから僕をかばってタクシーに乗せてくれたんや」
とママに話してくれた。
ママは母親でもおかしくない歳の人だったので、色々と親身になってくれていて、客が感謝していたことにほっとしたようだった。
「…で、あのあと、どうなったん?」
と訊いてきたので、その後のことを話すと、
「嘘やん!?」
と言って、にわかに信じがたい顔になった。
ママが、僕が手を血だらけにして帰って来たことを話すと、お客は目を丸くして、
「うそぉー。人は見かけによらんなぁ。チーフって全然喧嘩するタイプに見えへんのになぁ…」
と唸っていた。。

…まぁ、しかし。。
あまり誉められた喧嘩ではない。
今まで書いた喧嘩話と違って、やらなければならない切羽詰まった状況も思いも無かったし、避けようと思えば避けられた。
僕もムシャクシャしていた…。

“突き”に関する続きは、2つ目の喧嘩のあと、改めて。。

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