武道や格闘技の理論的なことについては、最初は梶原漫画に学んで、後に松田さんの本に影響を受けた。
今となって思えば、梶原漫画の中にあるのはどちらかといえば理論というよりケンカのコツみたいな感じだったが、まぁ、技術解説書ではないので、あまりツッコミを入れても仕方がない。
松田さんのサンポウブックス版『太極拳入門』を初めて読んだのは、たぶんまだ空手を習いに行っていた頃ではなかったろうか。。
しかし松田さんの本って、攻防技術に関してはどんな理屈があっただろう?
頭に浮かぶのは各身体要領と三尖相照くらいで、具体的な攻防理論については、何故だかほとんど思い出せない。
まーそれらは、思い出したら書こう。。
さて。
大抵どんな武道の入門書でも、多少でも理論に触れている場合、必ずと言っていいほどまず最初に書かれてあるのが、“正中線(せいちゅうせん)”や“半身(はんみ)”についてだろう。
初心者のために一応説明しておくと、正中線とは、人体を正面から見て縦に区切った体の中心線をいう。
まず、基本で学ぶ攻撃部位としての急所は正中線上にあり、また、攻撃を当てるために目標部位の中心を狙うことが最初のお約束である。
半身は、正面を向いて自然に肩幅程度に足を開き、つま先は真っ直ぐに前を向けた自然体(平行立ち)の状態から、どちらかの足を出し(または退き)、それに合わせて前足側と同じ側の肩を出せば、体がやや斜め方向に向いた格好となる。相手から見た場合、自分の横幅を狭くして約半分程度の幅に見せられるようになるので、半身という。
半身には攻防における色々な意味が含まれていて、最も基本的かつ重要な姿勢・身法と言えるだろう。
初歩的な説明としては、攻撃ではどちらかの足が少しでも前にある方が次の動作に移りやすく、防御では半身になることで相手から見た的(つまり自分の体の幅)を小さくすることで当てられにくくする、といったような意味がある。
そして、打撃系の武技であれば、例えば拳で攻撃するときは、上段なら人中(じんちゅう)、中段なら鳩尾(みぞおち)をめがけて、というように中心を狙うため、相手の中心を制することが重要になる。
防御する方は、このときの相手の攻撃を、自分の中心に向かってくる一つの直線と捉えて、その直線を外すように避ける。
言い換えれば、お互いに中心を、攻撃では取り合い(制し合い)、防御では外し合うといったことが、基本的な攻防の理屈となるわけだ。
ここまでは、武道を少しでもかじった者なら誰でも解っていることだろう。
ちなみに上記のような攻撃と防御の例は、あくまでも基本的なことであるのを留意してもらいたい。
素人の大振りパンチや訓練の浅いバックモーション見え見えのパンチは当たらないにしても、上記のような基本の突きもまた避けられやすい。
それどころか返って、大振りでさえ無ければ、素人のように斜めの軌跡を描くパンチの方が避けにくかったりする。
だから、基本はあくまでも基本。
まずお約束の線引きをした上で少しずつ稽古していくための方便である。
少なくとも僕はそう解釈している。
話を戻して。
正中線や半身以外の理屈として、最初に参考になったのは蘇東成さんの本だった。
『少林派 中国猴拳法』というのを読んだ。
たぶん先生のところに習いに行き始める少し前だったと思う。
それからしばらくして『中国拳法の秘法』という本も読んだ。
こっちは拳法を始めてからだ。
どちらも愛隆堂、刊。
調べてみるとこの2冊は、前者が昭和51年(1976年)、後者が昭和56年(1981年)の発行だったが、僕が両者を読んだ時期は1年くらいしか離れていなかったと思うので、前者・猴拳を買ったのは発行されてだいぶ経ってからだったのだろう。
愛隆堂の武道書って全体的に文章が少なかったのだが、松田さんの本では具体性が欠けていて解りにくかったことの一部が、少し解った気になった。
どちらの本にどんなことが書かれてあったのかはよく思い出せないが、攻防理論の解説があって、確か、攻撃を点と線、防御を面に例えて解説していたと思う。
円と圏の理論もこの本だったか…?
この人が書いていた詳細を思い出せないので自分の言葉に置き換えて書く。
例えば、拳での攻撃を点とすると、肘や肩などでの攻撃に繋がるような手の出し方、あるいは腕全体がそれらに対応できるような手の出し方ができれば、攻撃が点から線へと変化していくこととなる。
面による防御は、例えば、太極拳で両手を前に出したかたちを思い浮かべてみるといいが、板状の盾があると想定して、相手の攻撃(直線)を、その板を斜めに向けたりし方向を反らせて受け流すように考えるわけだ。
また、これら攻防においては、直線的な動きよりは円による運動を行った方が途切れが無くて都合がいい。
次に、相手の縦の中心線にプラスして横にも上下に分けて考える。
つまり十字に区切った状態。
レーダーのように見て、攻防ともに対応できる圏内に入って来た相手を迎撃するように防御・攻撃するというのが圏の考え方。
…まぁ、そううまくもいかないだろうが、ともかくこのように一つ一つを線引きして整理して考えていくことで、型のときの身体や手足の角度も変わっていくことになる。
動きに無駄が無くなるというのは、これらを踏まえその動きが最小限になっていくことだとも言えるだろう。
よく、名人の動きは、見る人が見れば球体のようだという話がある。
円や圏の考えをもってしても360度完全な円を形成することはできないが、体の向きを変え円の向きを変えることで、球体に近づくということだろう。
まーしかし。。
本当の実戦や乱戦でこのような動きができるかどうかは疑問だけれども。。
ともかく、こういった理論を思い描きながら太極拳の演武を工夫するのも楽しみの一つだった。
まずは型が上手くなることが当初の目標だったし。。