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太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

中国武術の嘘

投稿日:2012年6月8日

中国武術を修行していると、時折、今まで教えられてきたことを覆されることがある。
例えば、やっと馴染んできた要領や身法や諸々、
「今までのは嘘。本当はこうやるんだ」
などと言われて、次のことを教わる、というように。。
中には当然、一段階上のやり方として教わることもある。
その場合の「嘘」の意味は、本当はもっといいやり方があるわけだから、最初にやることはそれに比べれば嘘、ということになるのだが、最初に教わることがまったく役に立たないほどの真っ赤な嘘なのか…と言えば、ん~~~…、、微妙なのである。
そして、覆されるの言葉通り、極端な場合は真逆のことを言われたりもする。
さすがにそうなると、初めに教わることなどまったくの嘘に等しいということになってしまう場合もある。

僕は、著名な研究家諸氏や華々しい武術歴をお持ちの方々と違って、自分が習った流派を通してのことしかわからないけれども、とりあえずウチに伝わっている古武術や中国武術を学んだ経験から言って、中国武術には嘘が多いと思っている。
日本武術にも初心者を煙に巻く嘘やごまかしは幾らかあるものの、中国武術ほどではない。

では「何が?」「どんなところが?」ということについて、話をしてみよう。

但し、毎度のことながら一応断っておくが、これは僕が学んだ流儀からの観点を踏まえた僕の考えであって、ある程度は自分なりに客観視した研究考察を交えているつもりだが、ともかく内容は既存のものや他の流儀に対する否定的なことをも含む。
また、技術公開範囲の関係で理由のすべてを書けない部分もある。
なので、判断は読んだ方々にお委せする。
もちろん質問や意見などをコメントとして書いてもらって構わないが、あまり議論に応じる気は無いので、予めお断りしておく。
僕としては、後進の修行者に考える材料の一つにしてもらいたいという気持ちで書いているのみだ。

ではここから。

まず立ち方についての話をしよう。
例えば代表的な“弓歩”について考えてみよう。
(※但しここで言うのは一般的な後ろ足を伸ばした弓歩)
弓歩は大抵の中国武術門派にある代表的な立ち方の一つで、空手で言えば“前屈立ち”にあたる。
昔、松田隆智さんは、ご自身の著書の中で
「弓歩と前屈立ちは違う」
と書いていたが、当時の僕は、何がどう違うのかさっぱりわからなかった。
いや正直今でもわからない。
当流にあるような後ろ足を曲げた弓歩と比べるなら、明らかに違うし、当然僕はその違いを説明できる。
しかし松田さんが紹介していた弓歩は、写真で見る限り前屈立ちと同じに見える。
もし歩幅や重心の位置など、ほんの少しの違いを言っているのならば、空手でも流派によって多少は違うわけだから、そういうところを「違う」と言うのはおかしい。
ともかく、今でも多くの門派で採用されている弓歩は、空手の前屈立ちと基本的に何ら変わりないだろう。
で、“弓歩≒前屈立ち”ということで、話を進めるが、そもそも広い歩幅で後ろ足を伸ばした立ち方というのは、基本動作修得や下肢鍛錬以外に何の意味があるのだろうか…?

ここで(よくある例えなのだが)エンコした車を押している姿を想像してみて欲しい。
そこから、基本通りの弓歩の立ち方で、体を真っ直ぐにした状態で、前方にあるものを押す姿を想定するならば、後ろ足を真っ直ぐに伸ばした状態からは押しにくいのが誰にでも容易に理解できるはずだ。
もしエンコした車を押そうとしたら、後ろ足を少し曲げた状態から伸ばしていく力で押し、車が前方に移動して、重心が進むに連れて左右の足の役目が入れ替わり、同じように繰り返すことで押していくことだろう。
結局、後ろ足を伸ばした弓歩でも、送り足や継ぎ足をする際は、予備動作として後ろ足を一瞬少し曲げることになる。
実戦向きに歩幅を狭めて高い姿勢にしても同じこと。
後ろ足を伸ばしているのは不自然だ。
だからボクシングやムエタイでは後ろ足を少し曲げた立ち方をしているし、空手もフルコン系では従来の前屈立ちを捨ててムエタイのような立ち方をしている。

ではそもそも弓歩で立つ意味とは何なのだろうか…?

色んな理屈はあるだろうが、しかし姿勢だの身法だのを踏まえて基本通りの弓歩を守ったところで、ボクシングやフルコン空手よりも強大な打撃を発揮できる人が、どれほど居るだろう?
つまり、幾ら基本と言っても、そんな立ち方から入る必要はない、というのが、僕の見解なわけだ。
それどころか現実には余計な予備動作が加わる分、動作が遅くなってしまうので、一般的に紹介されている歩幅を広く取って後ろ足を伸ばした弓歩は、あまり意味がないと思っている。
…と言うか、、
極論と思われてしまうかも知れないが、バッサリ言ってしまえば、そもそもは、そんな風にやらせておけば師匠が弟子に後れを取ることがあまり無くなる、ということの一つでしか無いと思う。
もちろん敏捷な人も居るし、遠間から広い歩幅で一気に入るのがとてつもなく速い人も居る。
しかし、中高年にもなれば、なかなかそういう風にはできなくなる。
前手は半歩出れば届き、腕の曲げ伸ばしを含めた攻撃手の移動距離は数十センチ、というような間合いの中での駆け引きで、相手にガツンと喰らわすのが現実かつ実戦的だろうし、そういうときの足はそのような弓歩ではあり得ない。
もしここで、
「だから、そのためにも基本の立ち方が大事なのだ」
などと思った人が居たら、堂々めぐりにならないよう、読み返してもらいたい。

次に、含胸抜背や沈肩墜肘などについて。
昔習った含胸抜背の理は、
『胸を張っていると肺や心臓を狙うように胸部を打たれたときに危険である』
(※故に、空手や南派拳のように胸を張ったりしない)
とか、
『胸をすぼめるようにするのは懐を深くするためである』
(※故に、相手の胸部に対する攻撃が届きにくい)
とか、だった。
今でもそういう風に説明する人は多いことだろう。
もちろん、それはそれで間違いではないと思う。
しかし胸を張る姿勢にも胸を張る理がある。
一つ言えば、力が入るのは胸を張った姿勢なのである。
脱力や放鬆(ほうしょう、ファンソン)を重視する(?)北派拳法や内家拳法では、身法的にも何かと力が抜けるような要領を説いていることが多い。
例えば収臀(しゅうでん)などもそうだろう。
ついでに言えば、収臀を行うことで「背骨を真っ直ぐにする」という説明をしていることがあるが、これは間違いだと思う。
本来、背骨は、横から見た場合、緩やかなS字型にカーブしていて正しい姿勢になっているので、それを狂わすような姿勢をわざわざ取るのはおかしいからだ。
そして、力を発揮する際には“力が入る”姿勢でなければならないはずなのに、何故、力が抜ける姿勢ばかりが重要視されるのだろうか…。
“力を抜く”ということをテーマに考えれば、力が抜ける姿勢を取らせるのも解らなくはないのだが、それのみに陥ってはいないか、だ。。

また、沈肩墜肘だが。
肩を落とし肘を落とす、というのは、他の武術・格闘技・スポーツなどでも基本としてよく言われることなのだが、それは「肩が上がると力みやすい」とか「肘を落としていないと脇が甘くなる」などの理由からだ。
他にもよく言われる理由は幾つかあるが、ともかく、武術的には、必ずしもこれは当てはまらない。
沈肩墜肘という要領からすれば、それに逆らった肩や肘の使い方もあるからだ。
なので沈肩墜肘は、初歩的な基本ではあっても、普遍的な理屈ではないし、これに拘るのは間違いだ。

まーこれらは一例だ。
また、僕が習った流儀での理なのであって、他派の人にごり押しする気は無い。
しかしウチは、師匠の師匠にあたる人たちが、色んな流派の継承者を訪ねて習ったことが合わさっている。
良く言えば「いいとこ取り」、悪く言えば「ごちゃ混ぜ」だ。
伝えてもらえた範囲も様々なようだ。
それでも、それぞれ謝礼を弾んで肝心な部分を教わった結果だそうだ。
そんな中で導き出された答えとして、例えば前述の、
「肩を上げるのもアリ、肘を上げるのもアリ」
というのにしても、習った内の一つのやり方に過ぎないというわけではないのだ。
当時の先生たちがそれなりの経験から認めた流儀や師範について、
「なるほど。こういうところは同じだな」
という共通の理を重ねた結果なのである。
そしてそれは、本や雑誌に書かれてあったり、安い月謝で誰にでも教えてくれるようなことを比べて共通云々言っているのではないのだ。

それから、中国武術の世界では、遠回しなことや抽象的、観念的なことが多い。
また、実戦にどれほど役立つのかわからない練習方法も多い。
太極拳で言えば推手などがそうだ。
僕は個人的には、推手は、初・中級段階においてはある程度やっておいた方がいいと思うけれども、それに習熟すること、やり続けることに、あまり意味があるとは思っていない方だ。
経験上で言えば、まだ何も解っていなかった頃は、推手を通して太極拳の技を理解した部分もあったし、復帰しても、しばらくは推手に対する思い入れがあったのだが、次第に心が離れた。
まして、動画サイトなどでよく見かけるような推手は、映っている人たちの巧拙はともかく、やり方として、ほとんどがあまり意味をなさないものだという気がしている。
特に意味がないと思うのは、お互いが前後に重心を移動させながら、腰を回し、肩透かしのようにいなし、を、繰り返しているだけの推手だ。
それが何故いけないかは書かないが、ともかく、そんな稽古をするなら一本組手をやった方がまだマシだと思っている。

まー、何度も言うけれど、あくまでも個人的な見解ということで。。
長くなったので今回はこれで。。

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