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太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

T中の武術

投稿日:2008年1月8日

T中は愛想が良く人懐こいヤツで、男勝りの女の子Kの弟分扱いされながらも、その輪の中で和気あいあいとやっていた。
(※2008/01/04『鼻骨折(1/2)』参照)

僕はそれより前に、ブルース・リーやジャッキー・チェンの映画、漫画『男組』、松田さんの『太極拳入門』などで、中国拳法に興味はあったが、まだどちらかといえば色もん臭さも感じていた。
特に中国武術に理解があるわけでもない一般の人が、ブルース・リーと聞けば「アチョー」、中国拳法と聞けば「ハァー」っとカメハメ派の真似をする、といったノリと、それほど変わらない認識だった。
しかしKやT中と親しくなって、改めて『男組』や松田さんの本を読み返し、松田さんの他の著書や中国武術関連の書籍を漁る内、本格的な興味が芽生えた。
そして松田さんの本にどんどんハマッていき、『太極拳入門』を何度も読み返しているとき、松田さんが前項で紹介したポンキッキの『カンフーレディ』に出ているのを知ってビックリ。
T中やT宮に会ったときその話をすると、
「知ってます知ってます♪」
と、2人とも歌を口ずさみながら、ところどころ振り付けを真似てみせた。
「ジブンらすごいなー。もうフリまで覚えてたん!」

僕はその後、ポンキッキをビデオに撮ろうとしたが、すでに曲が古くなっていたのか『カンフーレディ』がかかる頻度が少なくなっていてなかなか録画できなかった。
それに当時はまだビデオが高価で、勝手に使うなと親に疎まれたりして、録画してもいつの間にか消されていたりした。
そんな中、陳家太極拳の部分を何度も見て、本で紹介されている型を5~6動作覚えたが、結局、面倒になって投げ出してしまった。
驚くのはT宮だ。
彼は松田さんの映像を参考に、蟷螂拳の本を見て套路を1つだったか2つだったか、覚えてしまった。
しかもT宮の家にはビデオなど無かったのに、彼はジャッキー・チェンの酔拳の型をほぼ覚えていたし、そういう興味を持ったものに対する彼の集中力は大したものだった。

それにしてもわからなかったのは、T中の知識や実力だ。
正直言って、少しも強そうではなかったし、体は細いのに何かをするときの動作は腰つきが重くて、運動神経が良さそうにも見えなかった。

ちなみにT中は、東南アジア系っぽい顔で、タイかミャンマーの男前といった感じだった。
どことなく異国風な顔立ちと中国拳法が相まって、不思議な雰囲気を醸し出していた。
…まぁ。。
今思えば、17歳の子供がどれほどのことを解っていたのかという感じだが、当時の僕やT宮からすれば、大先生。。(へ_へ;)

しかし結局。
少しでも情報を得たいと思って色々聞いたが、特別なことは何も得られなかった。

T中は、拳法の話をしているとき、僕やT宮に、
「こんな技あるんですよ」とか「それはこうするんですよ」とか言って、ちょこっとだけ口を挟んで手振りを見せたりするのだが、突っ込んで聞こうとすると、
「いえいえ、僕もそんなに知らないです」
と誤魔化してしまう。

ある日、T中と公園で夜まで話していて、組手をしたことがある。
いつもあまりにのらりくらりな態度なので、業を煮やして、
「こっちは受けに回って何もしないから、T中が得意な拳法でどう戦うのか、ちょっとやってみせてよ」
と頼んで、かなりしつこく迫った。
仕方なくT中は僕の前に立った。
すると、そこからいきなり貫手のような指先が飛んできたかと思うと、続けざまにすごい勢いで連続して飛ばして来た。
僕は面食らって、後退しながら段々後が無くなり、
「ちょ、ちょっとタンマ」
と言って止めた。
T中がやったのは、今例えればジャッキー・チェンの蛇拳のようでもあり形意拳の古式の鶏形のようでもあったのだが、そのときの僕にはわからない。
とにかく片手だけを使っていたと思うが、続けざまに勢いよく攻撃されて、軽い気持ちだった僕は、暗くてよく見えなかったせいもあって、慌ててしまった。
「す、すいません、ついムキになってしまって」
と、T中はいつもの顔に戻った。

面食らったのは確かだが、何だか怪態な動きだった。
しかもT中の様子はまるでトランス状態のようで、技…というより、ヒステリックな連続攻撃に驚かされたという感じだ。
もちろんそれも本当にT中が習った拳法の技なのかも知れない。
僕にはどう判別・評価していいのかわからなかった。
で、
「今のは何という拳法?」
と訊くと、
「蟷螂拳です」
と答えたのだったと記憶している。
しかし、手は貫手のようで、蟷螂手では無かったと思うのだが…。。

その後しばらくして、
トモダチの輪の元であるKとのつき合いが、ある誤解が元で途絶えてしまった。
奇しくもその誤解の理由が解ったのは10年以上も経ってからだが…。
ともかくそれと前後してT中とのつき合いもいつの間にか無くなってしまっていたのだが、大人になってから一度再会した。
その頃には、僕は今も習っている先生の道場に通って2年ほど経っていた。
懐かしさもあったが、気になっていたことを色々スッキリさせたくて、拳法の話を持ち出した。
彼も、
「hideさん、あれから拳法習ってはるんですね。陳家ですか?」
と訊いてきた。
「いや。楊家の流れらしいんやけど、よくわからんねん。佐藤金兵衛という人が太極拳の本出してんの知ってるやろ。そこの太極拳」
当時は正宗とか双辺とかいう呼び方もよく知らなかった。
すかさず僕も、
「そういやジブン太極拳もやってたやろ。それは何派なん?」
と訊いた。
T中は少し黙って、
「陰陽派です」
と答えた。
「陰陽派…って、聞いたことも無いけど、どういうもの?」
「陳家の流れです」
「ふーむ。よかったらちょっと見せて?」
彼は渋ったけど、話していた店を出てから、外で見せてくれた。
すると、最初の数動作で、
「あ、忘れてしまいました。もう長いことやっていなくて…」
と、やめてしまった。
何となく松田さんの本にある陳家の型をもじったような感じだ。
「松田さんの型と似てるね?今のところもう1回やってくれない?」
すると、やってくれたのだが、最初と違う気がする。
「あれ?さっきと同じ?何か違う動作入ってない?」
「いや、同じですよ」
高校生のときにも何度か見せてもらったことがあったが、こんなだったかなぁ?…という思いもあった。
結局、スッキリとはいかなかった。
果たして、陰陽派太極拳とは、実在の拳や否や。。

でも、T中とのつき合いを通して僕の中国拳法への興味が増していったのは事実で、それがあって、その後の出会いもある。
もちろん武術だけでなく、当時のつき合いを懐かしく思う気持ちもあるので、機会があればまた会ってみたい。

ちなみにT宮とは、別のサークルがらみで、Kと決別してからもしばらくつき合いが続いた。
僕は色々あって、その後、水商売に入って、それまでのつき合いをほとんど絶ってしまうのだが、T宮とは拳法がらみでまた何年後かに再会することになる。
それはまた別項で。

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