前項で“パチキ”の話が出たので、ついでに。。
2005年に公開された、井筒和幸監督の『パッチギ!』という映画があった。
僕は観ていないのだが、それによると、どうやら関西で頭突きを「パチキ」というのは、「パッチギ」という朝鮮語(韓国語)が語源になっているらしい。
「パッチギ」とは、「突き破る、乗り越える」の意味で、「頭突き」というケンカ用語としても使われる、とのことだ。
長年関西に住んでいながら、知らなかった。。(^_^;)
ちなみに、関西で言うところの「パチキ」は、「頭突き」以外にも、額に「剃り込みを入れる」という意味にも使われるらしいが、僕はよく憶えていない。
散髪屋のおっちゃんに、
「パチキ入れてや」
みたいに使うのだろうか…。
それはさておき。
大阪のヤンキーの喧嘩は、大抵、顔を近づけてにらみ合うところから始まる。
ヤクザ同士のにらみ合いも似たようなものだ。
そこで退こうものなら、さらにぐっと近づいてくるし、相手の肩や胸に手を当てて制したりしようものなら、
「おっ、ナニ手ぇ出しとんねん?」
と、イチャモンつけられる。
そんなやりとりは面倒臭いし、やるならやろうや、というノリで先制攻撃するのも手だが、知らないところでならまだしも、顔や素性を知られていると、後々面倒なことにもなる。
結局、大方は、すぐに手を出さず、まずは読み合いをする。
ハッタリのかまし合いと、度胸の試し合いだ。
フリだけで喧嘩になりにくいパターンもあるが、そういう場合も一触即発ではある。
言葉での応酬ばかりになっているときは、まだ冷静で、
「近づくな。息臭いねん」
「お前こそ鼻毛伸びてんぞ。鏡くらい見ぃ」
(笑える会話でも、もちろん当人同士は漫才をしているわけではない)
…などと言い合って、相手の力を量ったり、手を出そうかどうしようか迷っている。
それでも、何か一瞬のきっかけで始まることもあるので、気を抜けない。
ビビッた方は、即座にパチキかまされて、ボコボコにやられることになる。
もしくは、前述のように、イチャモンでも何でも、相手に手を出させておいて、それでやられたら、
「あいつが先に手を出した」
ということで、バックが仕返しに来るという、うざったい構造だ。
僕はこの、近距離でのにらみ合いが苦手だった。
ヤンキーは、いきなりずかずか近づいて、パチキの距離まで入って来ようとする。
そして、すぐには手を出さず、にらみ合い、威嚇、恫喝…などのかけひき。
子供の頃、不良連中はパチキの練習をするのに学校のボールでヘッディングをやったりしていたのだが、僕はそれが上手くなれなかった。
パチキが目や鼻にヒットしたときは悲惨だ。
何度か見たことがあるし、僕も、まともにではないが、喰らったことはある。
近距離からの頭突きを避けるのは難しいので、子供の頃は特にパチキを喰らうのが一番こわかった。
だから、喧嘩でそれを避けていると、
「何ビビッとんねん」
と言われることになるのだが、パチキが得意でないのにそのやり方で喧嘩をするのは上策ではない。
それに僕は力にも自信が無かったので、相手が大きければ言うまでもなく、似たような体格でも、距離を取って広いところに身を置くようにしていた。
漫画にあるような、
「壁を背にしていれば相手がうかつに殴りかかれない」
などというようなことは、少なくとも自ら戦法としては使ったことがない。
相手がうっかり壁を殴ってしまうほど壁に近ければ、自分も自由に動けない。
掴まれる可能性も高くなる。
それに複数の相手に囲まれたときは完全に不利だ。
だから僕の場合は、ビビッていると思われてもいいからさっさと自分から先に距離を取るように退いて、さらに相手が出てくれば、また退くか、手で押し返したりしていた。
それで、
「おっ。手ぇ出しやがったな」
となっても構わない。
数回そんなことを繰り返す中で、相手はこちらのどこかを掴みに来ようとする場合が多い。
それを手で払いながら、
「やめとけやぁ…」
と、やや力無く言い返すと、相手は完全になめてかかって来る。
その間に内心、距離感を掴んでおいて、
「しばくぞコラぁ!」
と勢いよく出て来たときにガツンとかましてやる、といったパターンだ。
結構、計算高くやっているようだが、実際にはこちらにも迷いがあって、緊張もしている。
最初から余裕で勝てるつもりでいたことは、あまり無い。
きっと元来、僕は小心者なのだろう。
多少、武術的な意味合いが解るようになると、“圏”というものを意識する。
最近では少年サンデーに連載されている漫画『史上最強の弟子ケンイチ』でも取り上げられているが、これは、攻撃・防御が行える制空権を、自分を中心とした球で現したもの。
(※2007/03/09『攻防理論の初歩』参照)
まぁ、実際には完全な球体にはなり得ないと思うし、本当に自分の圏を確立して意識できるようになるのは難しく、僕は今でも出来ているとは言い難い。
それはともかく、少なくとも「自分の得意な距離感」というくらいのものは、誰でも持っているだろう。
それもひっくるめて「圏」と呼ぶことにするが、
大阪の喧嘩では(全国的にも?)、特にパチキが得意というわけでなくても、この圏の中にずけずけ入って来ようとするヤツが居る。
ド素人だから不用意に、わざわざぶん殴られに入ってくる…とは限らなくて、始末が悪い。
バカそうなヤツでも、喧嘩慣れしているヤツは、微妙に心理的なかけひきを使う。
こちらも子供の頃と違っていきなり手を出すわけにはいかないので、対応が難しい。
もちろん、喧嘩にならないのが一番なのだが、相手の意や物事の前後を見極めて適切に対処するというのは、なかなか至難の業だ。
事なきを得るために、謝ったり、逃げたりすることを、恥ずかしいとは思わない。
特に、常識のあるオトナであれば、職責もあれば、守らなければならないものもあるわけで、つまらない喧嘩が大事に発展したりするよりは、事を起こさない方が懸命だろう。
しかし、事なかれに徹して、返って恥ずかしい思いをすることもある。
街で肩がぶつかった程度のことなら謝ればいいのだが、そんなに単純でないときもあれば、こちらもオトナになれないときもある。
これが危険な考えなのだが、未だに僕は迷うところだ。。
「圏」の話は、武術的に考えれば、圏の中に入ってきた時点で即攻撃となるべきところだ。
しかし現実、なかなかすぐ手を出すわけにもいかないので、対応を工夫しなければならない。
まぁ、その辺の対応策は、それぞれお考えあれ。