中国拳法、武術、格闘技など、徒然気ままに…

太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

兄弟弟子 Part 2

投稿日:2007年3月22日

K阪さんも空手をやっていて、僕とは違う流派出身だった。
僕と同じように、やはり空手に疑問を抱いて先生の門を叩いたのだそうだ。
空手を習っていた期間は僕と同じくらいだったが、少年部上がりで3年ほどブランクがあった僕と違って、先生の道場に来る少し前まで空手の道場に通っていたようだった。
だから姿勢もしっかりしていたし、高く速い蹴り技も健在だった。

K阪さんは4人の中で一番年上で、リーダー的存在だった。
年齢は、K阪さん(2歳上)、僕、T君(2歳下)、K池君(3歳下)の順だった。
(※カッコ内は、僕から見た年齢差)

K阪さんは物をはっきり言う質で、最初の1~2ヶ月くらいの頃、僕に、
「オレ、正直言うけど、きみみたいなタイプは好かんねん。まぁ、一緒に練習している仲間やから、そういう意味ではうまくやっていきたいと思ってるけど、それ以上は特別馴れ合いになりたくないねん」
と言ったことがあった。
K阪さんからすれば、僕はチャラチャラした遊び人に映っていたらしい。
(後にそう説明された(笑))
僕は、何となく感じていたし、あまり考えもせずに、
「そうですか…。でも僕はK阪さんみたいな人は好きですよ。そう言わずよろしくお願いしますよ」
という程度に返した。
それからしばらくするうち、思ったより打ち解けてきた。
そんなある日、みんなでお茶していたときだったと思うが、K阪さんが、
「オレって小さい人間やねん。そういうことを考えてよく落ち込んでしまうんや」
というような話をし始めたことがあった。
K阪さんは苦労して、働きながら学校に通い、整骨医になろうとしていた。
収入のことや将来の不安など諸々あって過敏に色んなことを考えていたようだ。
「でも、hideくんはなかなか人間ができてるで」
突然、前述の会話のことを持ち出してきた。
「オレにこんな風に言われたのに、さらっと流されて、それも考えさせられたワ」
というようなことを言った。
僕は苦笑して、
「別に僕も人間ができてるわけじゃないですよ。単に、本当にK阪さんのことを嫌いじゃないからその通りに答えただけです」
と返した。
それからは、ぶつかるようなことは何一つ無かった。

K阪さんも武術に対する思い入れが強かったが、しかしT君や僕のように中国武術にどっぷりというわけではなく、格闘技全般をよく見渡している感じだった。
吉川英治の『宮本武蔵』に感銘を受けて武蔵ファンになり、萬屋錦之介の映画5部作一挙上映を観に行ってヘトヘトになった話など、面白可笑しく話してくれた。
その流れで『五輪書』や『孫子』も読んだそうで、“兵法”として捉えた感じでの武道観を持っていた。
僕もK阪さんに影響されて、同じように『五輪書』や『孫子』も読んだし、勧められた司馬遼太郎の『竜馬がゆく』や『関ヶ原』なども読んだ。
僕としては、中国拳法を始めたばかりの頃は松田さんバリバリで、どこかしら夢のような武技に期待を膨らませていた部分が大きかったが、K阪さんのおかげで多少は現実的な物の見方、考えること、工夫すること、などに気づかされたような思いがある。
そういう意味で、K阪さんから受けた影響は少なからずだ。

太極拳で、相手にピタッと貼り付いていく技術がある。
“沾、粘、連、随”(せん、ねん、れん、ずい)というヤツだ。
このため太極拳の攻防では、
「まず相手に触れていくことを目的とする」
と考えている人が多い。
まず触れ、そして相手をコントロールして自在に打つ、というように。
このためか、
「一旦、貼り付く」
という言葉をよく耳にする。何度聞いたか知れない。

一旦貼り付くことができるのなら、そんなことしてる間にぶん殴ることだってできるやん…。

だが僕も、最初はこういうことが現実に実戦でできるようになると考えていた。
あるときK阪さんが、
「貼り付いて付き従うなんて、本当にできると思う?」
と言ったことがあった。
「う~ん。先生が言っていた歩法を使えば…ある程度は…」
「じゃあやってみ?」
そこで、突きを受けた状態のときのように手を合わせた。
すぐにK阪さんは逃げ始めて、僕は付いて動こうとしたが、あっさり数メートル先まで逃げられてしまった。
確か、一度突いてから逃げるというようなのも合わせて、2~3度やったと思う。
結果は同じ。

約束組手と言えども、掴んで崩すというのはなかなか難しい。
体捌きや挟み技などで崩せたなら、そのまま何らかの攻撃を加える方がいいし、わざわざ相手の動きに合わせて付き従う必要がない。
もちろん、そういうシチュエーションになったなら、一瞬待ちに転じて“後の先”のように技をかけるのもありだとは思うが。。
僕が未熟だからできなかった部分もあるかも知れないし、こういった技術がまったく役に立たないとまで言ってしまう気はない。
しかし、
「一旦貼り付いて、付き従う」
というのは、少し解釈が違う気がする。

そして、K阪さんは、頭の中での想像が先行しがちになっていた僕を、このように何度か思い知らせてくれた。
「ではどう使えばいいのか…?」
おかげでそれを考えたり工夫したりする楽しみが、改めて芽生えた。

K阪さんは、だからと言って、自分がせっかくやっている中国武術に何もかも否定的だったわけではない。
元々ブルース・リーにあこがれて格闘技に興味を持ったそうだし、発勁や寸勁というものにも大きな期待を寄せていた。
ただ、常々、疑問に思ってみるということを忘れなかったのだ。

根はきまじめで気難しいけど、同時にユーモアも備えている人で、毎回稽古のあとにみんなでお茶するのが楽しみだった。

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