最近の記事に関連して、中国武術教室などで一般的に行われている型や大架式の型などと武術的な型の違いについて、若干述べようと思う。
ただ、あまり細かいことは書けないので、一例ということで理解してもらいたい。
まず一つ目。
「上歩打セイ」の手の位置を例に書いてみる。(※図1)
ちょっと大雑把な絵で申し訳ないが、文章説明と合わせて想像して欲しい。
図1は、正宗太極拳(九十九式)の第三勢「上歩打セイ」の、相手の攻撃を受けた姿勢なのだが、基本的な用法説明としては、相手の順歩右拳による突きを受けたかたちになる。
この際、当流では、黒で書かれた1の位置のように、中心上で受ける。
しかし一般的には、赤で書かれた2の位置のように、受け手を演武者から見て右方に移動させて、流すように受ける。
同系の太極拳でも派によっては、受け手に纏絲動作を含まない場合もあるようだ。
つまり動作を大きく表現しており、派によっては纏絲を隠している(もしくはそう伝承されている?)わけだ。
他の技でもこのような例が当てはまる動作は多い。
(※実際には、体の向きや右手の位置も少し変わるが、説明が細かくなるので、ここでは図のような説明に留める)
次に、図2を見てもらいたい。
表演などでよく見かける太極拳の足運びだ。
一般的な説明としては、歩を進めるとき、前足の膝を一旦しっかりと上げて、接地の際は前足をまっすぐ伸ばして踵から付け、つま先を上に向けて、そこからゆっくり足底を付けて行き、後ろ足を伸ばしながら重心を前方に送る、というように教わるだろう。
要領として、大きな球の中に居るイメージで、その球を転がすように歩け、とも言われる。
まぁ、それも間違いではない。
しかし初歩だ。
また、図2の右図のように、前足を伸ばしているのは、膝やつま先を踏まれると非常に危険だし、それ以外の蹴りや足払いに対しても弱い。
これくらいのことは想像したことがある人も多いだろう。
では何故このようにするのか。
それはたぶん、初心者に基本をわかりやすくするために動作を大きくしていることと、あとストレッチの意味からだろう。
もちろん本格的なストレッチには及ばないが、太極拳を体操として行う場合、「膝を伸ばす」「つま先を上げる」などは、ちょっとしたストレッチになる。
ストレッチはストレッチで別に行えば良さそうなものだが、健康体操としての意味合いからそういう風にしたのが始まりではないだろうか。
ただ、これが大架式になると、それはそれで非常にしんどい。
広い歩幅で腰を低くしてやればかなり足腰に来るし、柔軟性も要求される。
しかしそういった基本習得や足腰の鍛錬を目的としたところで、このような型は実戦に向いたものとは言えないだろう。
他派にもある技で言えば“ラン雀尾(らんじゃくび)”の双按など、この図2のように、一旦後方に引いて右図のような立ち方になり、按の際に前方に重心移動をして左図のような弓歩になる。
これもよく見かけられる動作だろう。
挙げればきりがないが、ともかく、技を分解してわかりやすく、動作を大きくしてあるのが、一般的に公開されている型だと思う。
これらは一見、用法的によく出来ているように見えても、現実的な攻防では使えない動きが多い。
少なくとも僕が見る限りではそうだ。
で、中架や小架の型というものは、もう少し実際の使い方に適した動作を行うようになっている。
…まぁ、余所の型はわからないが、当流で言えば、技の中には必ずしも現実的でないものも含まれているにせよ、姿勢、歩法、打ち方、などは、実際の攻防の動きに近い。
フォームを身につけ、そのフォームをより良く整えていくことや、自己メンテナンスの意味でも、基本のような型よりは攻防技術の訓練になるはずだ。
まー型だけで強くなれるとは思わないけれども。。
ついでに当流の弓歩についても、ちょっと触れておこう。
図3のように、当流の弓歩は後ろ足を伸ばさず曲げたかたちになっている。
また、頭頂から後ろ足の膝までをほぼまっすぐにする。
後ろ足を多少でも意識的に曲げた弓歩は、他派や他拳法でも見かけられる。
空手の前屈立ちなども、古い入門書を漁ってみると後ろ足を曲げた前屈立ちをしている流派がたまにある。
それに対する考察はおいて、この立ち方にはこの立ち方なりの発力の仕方がある。
図2のように明確な前後の重心移動による推進力は、わかりやすいだろうが、動作として大きい分遅くなるし、相手に動きを読まれやすい。
まぁ、動作にせよ重心移動にせよ、当流でも初心者に対しては大きく明確にさせるのだが、後々は小さく鋭くまとめていく。
この立ち方については、説明すれば当然ながらもっと細々あるのだが、ここではこの程度に留めておく。
今回説明したようなことは、初心段階で気づいたり疑問に思ったりするのが普通だと思うのだが、一応指導者になっているような人でも解っていない人が多いように見受けられる。
なので、大雑把な説明ではあるのだけれども、多少でもこのブログを読みに来ている人の理解の一助になればと思って書いた。
以下、コメント
旧ブログからの移転にあたり、掲載当時のコメントはこの下に“引用”のかたちで付けておきます。管理人からのレスは囲みの色を分けてわかりやすくしておきます。
なお、現在はコメント機能は使用しておりません。ご意見、ご感想等はメールにてお願い致します。
遅ればせながら本年もよろしくお願い致します。
仕事がバタバタでひさしぶりにコメントさせていただきます。
今回もとても参考になりました。やはり弓歩もボクが以前、教えてもらっていたのと同じですね。(最近、忙しいのと、膝の故障で教室に行っていないので…)同じ流派なので少しうれしくなってしまいました。ボク自身は左足の太ももを脱力したときの下に落ちる推進力を打つ力にすると思ってやっています。(それが正しいかどうかは自信がありませんが…)でも、太極拳はほんと、奥が深いですよね。自分でひとつずつあれかな、これかなと考えながらやるのがとても楽しいです。本年もいろいろとご教授ください。では。Posted by kankoben at 2012年01月17日 10:31
>kankobenさん
お久しぶりです。本年もよろしくお願い致します。
膝の故障、大変ですね。お大事に。
僕も年齢が上がってから膝の調子が悪くなってきました。
なので膝に過度な負担がかかるような運動はなるべく避けるようにしています。
例えば、形意拳の龍形やウサギ跳びのような運動とか、低架での太極拳とか、膝を深く折り曲げた状態から大きな負荷がかかるような運動とか…。
kankobenさんも、膝が癒えても、そういう運動は控えた方がいいと思いますよ。
ただ、足は鍛えないといけませんし、膝だけを使わないというのは無理ですから、運動前に膝をなるべくマッサージしてほぐしておいて、軽く曲げた状態から負荷がかかるような運動をするのがいいと思います。
例えば重い物を持った状態で、膝を軽く曲げるだけのスクワットをやるとか、同様に太極拳を中架~高架で足運びだけやるとか。
逆に、深く曲げた状態からだと、ヤンキー座り(う●こ座り)の状態から膝の高さくらいまで上がる運動を繰り返すとか。。
> ボク自身は左足の太ももを脱力したときの下に落ちる推進力を打つ力にすると
> 思ってやっています。(それが正しいかどうかは自信がありませんが…)
この「左足」とは、僕の図を見て、後ろ足のことを言っているのですよね?
だとして、書きますが、その場合の落下は推進力にはなりにくいです。
推進力とは「前に進む力」であり、目標物(相手)に対して作用する力ですから、この場合、当然でわかりやすいのは、後ろ足で地面を蹴る(踏ん張る)力です。
そのとき一瞬、膝の抜きを使うと言うのでしたら、それは“反動”を使うということになるでしょうね。
ただ、一瞬(わかりにくい程度にですが)軽く腰を落としてその反作用を利用して打つというのは、空手やボクシングでもやることですし、それはそれで間違いではないです。
それを“膝の抜き”を使ってやるというのも、一つのやり方ではあるでしょう。
しかしそれだけではなく、いろんな部位の総力をどのように集約させるかというのが、僕が言う“発力”です。
また考えて工夫してみて下さい。
Posted by hide at 2012年01月17日 13:28
いつもながらていねいな解説ありがとうございます。
そして膝へのお心遣いありがとうございます。
ここ半年ぐらいから階段を上がったりするときに「ポキポキ」と異音と軽い痛みがあるようになり、現在に至っています。
そうですか。太ももの力を抜くことで下に落ちる重さを利用して打つのかと自分で試していたのですが、違いますか。
膝を痛めた原因もこうした無理な動きにあったのかもしれませんね。気をつけながら精進します。またいろいろお教えください。ありがとうございました。Posted by Kankoben at 2012年01月18日 13:48
>Kankobenさん
コメントをありがとうございます。
膝、勝手な推論ですが、たぶん軟骨のすり減りによるものでしょうね?
膝の軟骨は再生できないそうなので、何らかの治療が必要です。
お医者さんには行ってると思いますが、自分でも調べて、今後の運動にも気をつけて下さい。お大事に。
> そうですか。太ももの力を抜くことで下に落ちる重さを利用して打つのかと自
> 分で試していたのですが、違いますか。
ちょっと言葉が伝わっていない感がありますので補足します。
僕が言いたいのは、“膝の抜き”自体はそのまま推進力にならないということです。
整理しますが、
まず、もし膝の力を抜いたままにすれば、その場にへたれ込むことになりますよね。
つまり『止まるところ』があるということです。
どの立ち方で止まるにせよ、止まった瞬間の踏みしめを利用して打つわけです。
なので、落下そのものは前方への力にならないのです。
もし落ちる重みを前に伝えるとしたら、前方斜め下に向かって落ちなければなりません。
膝の抜きはよく歩法として、前方に向かって速く動こうとするときに使いますが、この場合も初動で心持ち前傾となり、やや前方斜め下に向かって落ちます。
しかし前に進む力は、一瞬落ちた後の地面を蹴る力によるものです。
もし膝の抜きだけにすれば、前方斜め下に向かって倒れていく分の力に過ぎません。
それでは瞬間的な力にならないでしょう?
また別な例えをすれば、空手などで、自然体から膝の抜きを利用して一瞬で騎馬立ちになり正拳を放つ、という突きの練習をするのを見かけますが、これも同様です。
急な落下から姿勢を作って踏みしめ、瞬間的に強い安定状態を作って突きを放つわけですね。
昨日書いたレスの言葉で言えば“反動”(反作用)を利用して打つやり方の一つ、ということになるでしょう。
これで落下そのものが推進力にはならないという意味がわかってもらえたでしょうか?
…ただ、Kankobenさんが言わんとしたことが僕に上手く伝わっていないのかも知れませんし、そうであればKankobenさんの方でも補足して下さい。
あと、拳法は足の力で打つとは言っても、足だけで打つわけではありませんから、他の部位の力もまとめて、どうやって一瞬に集約するか、ですね。
実は記事に書こうと思っていたことですが、ここで書いてしまいました。
もう少し突っ込んだことを書くかどうかは未定です。。(笑)
> 膝を痛めた原因もこうした無理な動きにあったのかもしれませんね。
大きな負荷がかかる運動をするためには、大きい負荷に耐えられる状態にしておかなければなりませんね。
膝の場合で言えば、それを補う周囲の筋肉を鍛えておくことです。
そんなこんなも含めて、色々考えてみて下さい。
Posted by hide at 2012年01月18日 15:43
またまた初学者のボクにも理解できる、ていねいな解説、ありがとうございます。なるほど!と思いました。なにぶん、自習しながらこうかな?なんて模索しているので自分自身、勘違いや間違いも多いのです。お手数おかけしました。精進します。
Posted by kankoben at 2012年01月18日 16:21