中国拳法、武術、格闘技など、徒然気ままに…

太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

不動禅少林寺の人

投稿日:2009年3月2日

前項に関連して、他武術の人と交流した話をもう一つ。
今度は逆に、僕が思い知らされ、反省の材料となった話だ。

拳法を習うようになって3年目、前項の頃より数ヶ月後くらいだったか。。
ある朝、家の近くの公園で練習をしていて、少林寺拳法をやっているという人に声をかけられた。
その頃は形意拳の連環拳と剣の型を教わったばかり。
形意拳は高級拳法のように言われていたから、早くも五行拳や十二形拳の先に進めたことが嬉しくて、朝、人気の無いうちにそれらの型を練習しに行ったりしていた。
当時住んでいたのは北大阪方面にある新興住宅地で、近くに広大な公園があり、人気が無い時間は物騒なためか早朝から散歩に来る人はあまりいなかった。
だがその日はめずらしく男性1人が通りかかった。
男性は30代後半くらいで、近くに来て立ち止まると、眼光鋭く、じーっとこちらを見ていた。
僕の練習を観察している。
僕は僕で、何かやっている人(武術経験者)だと、すぐにピンと来た。

余談ながら、今では中国武術練習用のアルミ製の剣や木剣などは簡単に手に入るが、この頃にはどこで売ってるのかもわからず、練習にはもっぱら素振り用の木刀を使っていた。
少し太めで約900gくらいの重さだ。
柳生心眼流の太刀の型を少しだけ習っていたので、その練習用を兼ねていた。
そんな習慣のためか、未だに中国武術用のものは持っていない。
というか、中国武術の剣や刀は、改めてやってみたい気もするけど、日本の剣術の方がずっと好きだ。
機会があればそっちをやりたい。

…で、男性は、僕が素振り用の木刀を持って剣道でもない奇妙な型を演武していたので、気になったのだろう。
また、僕がまだ拙い技量だったので、からかってやろうとでも思ったのかも知れない。
しばらくすると、声をかけてきた。
「きみのやってる、それは何や?」
挨拶もなくちょっとつっけんどんな言い方に内心むっとしたが、相手は年齢もずっと上だし、何かをやっている人だということも察していたし、いずれにせよ僕より先輩だから、ひとまず素直に答えることにした。
「中国拳法の練習をしてるんです」
「ほう。初めて見たワ。面白い動きやな」
「そちらも何かやってらっしゃるんですか?」
「オレは少林寺拳法や」
(げっ!)
よりによって嫌なのに捕まった…と思った。。

ここでまた余談になるが。。
少林寺拳法が日本の武道であること、また、2つあることをご存知だろうか?
少林寺拳法と言えば、一般には四国に本部がある故・宗道臣氏を開祖とする“金剛禅”だ。
もう一つは、名称をめぐって金剛禅と訴訟になった“不動禅”。
この係争の詳細は、興味ある人はネット検索で調べていただくとして、要は、金剛禅が不動禅を訴えて却下されたものの、和解して、不動禅が「少林寺流拳法」と「流」を付けることで落ち着いたそうだ。
この2つの少林寺拳法が日本の武道であることは、今では、少なくともこの世界では、少林寺拳法修行者を含めて、ほぼ周知の事実となっている。
もちろん、中国の嵩山少林寺に由来する少林派の拳法、総称して“少林拳”と呼ばれるものとは異なるし、空手の流派“少林寺流”とも関係がない。
両者の技術的な違いはよく知らないが、人づてには、
「どちらも一緒。突き技が違う程度」
と聞いていた。
実際のところは今も知らない。
ちなみに、ネット上の情報によると、不動禅は代表の霊雲臥龍氏が亡くなってから、不動禅もそのまま残っているが、幾つかに枝分かれして別の名称を名乗ったり、フルコンタクト空手の流派になったりしたそうだ。
また、金剛禅から枝分かれして空手の流派を名乗るようになったところもあるそうで、何だかややこしい。。

実は子どもの頃から、僕はあまり少林寺拳法が好きでは無かった。
それは上記とは関係なく、単純に、同じ学校の同級生で前に書いたことのある“K野”が少林寺拳法の道場に通っていたからだった。
(※『小男の強さ』参照)
後に前述のようなことを知ると、何だか胡散臭く思えてしまって、なおさら敬遠するようになった…。

それで、、

冒頭の男性が少林寺拳法を名乗ったとき、ちょっとひいてしまったわけだ。
だけど、同時に好奇心も頭をもたげた。
「少林寺拳法も、中国から来てるんですよね?」
前述のような知識はこのときすでにあったが、どう答えるのかに興味があった。
「そうや。ただ、オレんとこのは不動禅と言うんや」
「そうなんですか」
「オレんとこのはホンマの少林寺拳法でな、もう一つの少林寺とは全然違う!」
「………」
僕は内心、
(どっちも中国の少林寺と関係ないじゃないか…)
と思ったが、角が立たないように黙っていた。
男性はこのあと饒舌になって、よく憶えてはいないが、流派の自慢めいたことを幾つか言って、それから、
「突きはどうやるんだ?」
「拳の握りは?」
「関節技や投げはあるのか?」
「他の型を見せてくれ」
…等々、根ほり葉ほり聞いてきた。
僕が、普通に拳を握って、金鷹拳の突きの格好をして見せると、
「あれ?さっきは縦拳やったやろ?」
「ああ、それは形意拳という拳法です」
型は、最初は断ったが、あまりしつこく言われたので、確か金鷹拳の基本の型と、太極拳の十四勢をやって見せた(…と思う)。
「で、それはどう使うん?ゆっくり突くから教えてくれ」
僕は断ったが、
「何でもいいから。ちょっとでいいから…!」
としつこい。
「じゃあ、うまくできませんけど、カタチだけ…」
と、起勢から上歩打セイまでの、最初に教わる用法を説明した。
「それ、使えると思う?」
…ちょっと返答に困る。痛いところだ。
「まぁ、実際に今の説明の通りに使うのは難しいと僕も思いますよ。ただこれは型の最初の用法説明ですので、他に使い方や意味があるそうです」
「ふーん。じゃあ逆手とか関節技は?」
「日本の古武術を少し教わっています。でも僕はまだ大したことありませんから」
太極拳の型の中にも関節技への応用はあるけど、説明するのが面倒だ。
すると、
「手ほどきくらいはできるだろう?」
と、僕の手を取りに来た。
僕は、男性の態度が気にくわなくて技を見せるのが嫌だったが、とりあえずこの手を解こうとした。
…が、男性の力が強くて、なかなか外せなかった。
すると、僕の技量がわかったからか、
「良かったら少し教えてやるよ」
と、拳の握り方や手の解き方などを説明し始めた。
逆手のかけ方や角度なども教えてくれた。
最初は有り難迷惑な思いもあったが、男性は正直、上手い。驚いた。。
くやしい思いもあったが、腕前が違い過ぎる。
それに関節技をかけるときのスムーズな動き、またかけられた痛みからも、この人が偉そうな口を叩くだけの実力があることがよくわかった。
「真剣を振ったことあるか?」
「いえ、無いです」
「ついでに刀の握り方も教えてやるよ」
と、僕の木刀を持って、奇妙な握り方をして見せた。
「変わってるやろ。でもこれがホンマの握り方や。こうせんと人は斬れん」
(…って人斬ったことあるんかい!)
と思いつつも、興味深い。
それは、肘や手首の関節を絞って固定するような握り方だった。
窮屈な感じだが、そう握れば刃がぶれないという理屈らしい。
いいか悪いかは判断がつかなかったが、なかなか新鮮に思えた。

「きみは何故、中国拳法をやっているんや?」

…僕は、上達すれば短い距離からでも打てるとか、理論が高度だとか、ほとんど本からの受け売りのようなことを挙げた。
その人は一笑に付して、こう言った。

「人間そんなに器用に動けるもんやないぞ。ナンボ理屈が高度でもやれることはたかが知れてる。それに強いヤツはどんな武道のどんな流派にでも居るもんや。つまらん流派にでも強いヤツは居るぞ!」

僕は正直、まさにその“つまらん流派”と勝手に思っていたところの人に、軽くあしらわれた上、そう言われて、ガツンと頭を打たれた気持ちだった。
実際、技のかけ方も上手かったし、力も強かった。
「こんな人に、今やってることを何年かやれば勝てるようになるんだろうか?」
…と考えたとき、この時点でまだ何も出来やしないのに、そのうち出来るようになる、他の武道や格闘技を圧倒できるようになる、という甘い幻想を抱いている自分に気づかされた。

いつの間にか時間を忘れ、1時間くらい話していた。
僕が素直に教えを乞う姿勢を見せたので、機嫌良く色々教えてくれ、良かったら習いに来ないかと名刺をくれた。
あまり記憶に自信が無いが、その人は五段か六段で、組織の中で多少偉い立場のようなことを言っていた。
ウチの道場のことも聞かれ、僕はそのまま正直に答えた。
しかし内心、その人が訪ねてきて、
(もし先生と手合わせをするようなことになって、先生が負けたらどうしよう)
と心配になった。
T先生が僕らよりずっと上手いのは確かでも、実力はよくわからなかったし、何せまだ若い。
相手はベテランの師範だ。
…しかし、結局その人が来ることは無かった。
また、その後は同じ公園に練習に行っても、その人と会うことは無かった。

正直今も、少林寺拳法は好きではない。
金剛禅も不動禅もなく、技術的にもよく知らず、食わず嫌いな感じだ。
けれど、考えるきっかけの一つを与えてもらったという点で、この男性との出会いは有意義で印象的な出来事の一つだった。。

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