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太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

第二期修行02:T先生との再会2

投稿日:2016年11月29日

前回のT先生との電話での会話は、淡々とした描写になっていたかも知れないが、実際のそのときの僕は、心中、嬉しさで舞い上がっていた。
……まあ、断られたら断られたで仕方が無いが、武術をもう一度やりたいと思っていた矢先に、先生の方から見つけてもらえたのだ。緊張して、気を遣いながら、お伺いを立てるような心持ちだった。
けれどその一方で、気がかりもあった。わだかまりと言ってもいい。
以前も書いたが、兄弟弟子たちがT先生を嫌ってやめてしまったことだ。
僕自身も、一度復帰したときに、兄弟弟子たちの気持ちを少しは理解していたから、もし相変わらずだったら、これからの付き合いがまたしんどいことになるかも知れない。
(※2012年10月24日『兄弟弟子たちの本音』参照)
今のT先生はどんな人になっているのだろうか。
先生もすでに40代。まあ、あの頃よりは人として成長しているだろうし、過ぎたこととして、話せるときが来たら兄弟弟子たちのことを話してみようか、そのとき、「あのときは彼らに悪いことをしてしまったなあ」くらいは言えるような人になっていたらいいなぁ……と、いうのが、僕の微かな望みだった。

そして肝心の武術だが、T先生にとっては仕事や家庭が優先なのだろうけれど、それでも、兄弟弟子たちがぼやいていたときのような状況では困る。
だから実は、S先生に教えてもらうことも視野に入れて考えていた。S先生とは親しいわけでは無かったが、T先生の元で一番弟子だった“Tくん”が、途中からはS先生の預かりになっていたことを前に聞いていたからだ。
昔は僕も、金鷹拳はS先生から指導を受けていたわけだし、顔を見れば僕のことも思い出してくれるだろう。
それにS先生の方が、T先生よりはずっと、出し惜しみせずに教えてくれる人だったし、もしT先生に習うにしても、S先生のところにも顔を出させてもらいたいと思っていた。

とにかく、それもこれも、まずはT先生と会ってからだ。

――そして、12月。
前回、「クリスマス前」と書いたが、もしかしたらもう少しあとだったかも知れない。学校が冬休みに入るまで忙しいから、冬休みに入ってから会おうと言われたような気もするので。
まあとにかく、年末のそんな時期。

ちなみに、前記事から書いていることは、過去記事の2012年02月27日『しんどい外功鍛錬(筋トレ)』と重複する部分がある。これも過去記事を拾い読みしていて気づいたのだが。
細かいところでは描写に差異があると思うが、読み返してみると過去記事では端折って書いていたところもあったので、改めてもう少し丁寧に振り返って書いていっているものと、ご理解いただきたい。

待ち合わせは、天王寺。
近鉄『大阪阿部野橋』駅のそばにある、ビデオレンタル店『TSUTAYA』の1階奥にある“スタバ”の喫茶コーナーだった。

僕は30分ほど早めに着いて、時間潰しに上階のビデオコーナーを見て回っていたのだが、ふと、もしかしたら先生も早く着いて同じようなことをしているかも知れないと思い、辺りを見回しながら歩いた。
だが繁華街の店なので人が多すぎる。それに一目見て判るものかどうか。
(ダメだな、こりゃ)
と思っているうちに、10分前。待ち合わせ場所に行って座っていようと思い、再び1階スタバへ。

ところが時間になっても、来ない。
場所を確認したり、時計を見返したりして、連絡方法が無いのでどうしようと思っていたら、結局10分か15分ほど遅れて、現れた。
席のすぐそばに階段があったのだが、ちょうどその階段を降りてきた。遅れて来たことなど意に介しない、のんびりとした足取りで。
僕は視力が悪いので念のため数秒ほど慎重に見たが、すぐにT先生だと判った。昔より痩せてすっきりしていたが、顔はあまり変わっていなかった。
僕が立ち上がって頭を下げると、T先生は階段を降りながら首だけ動かすような動作で軽く会釈。
階段を降りて並ぶと、
(あれ? 先生、こんなに小さかったっけ?)
思っていたより背が低かったのが印象的だった。

「どうも、お久しぶりです。大変ご無沙汰していまして……。コーヒーを買ってきましょうか」
「いや、僕はええわ。それより、ちょっと話して、移動しよう」
「わかりました」
T先生はコーヒーよりも酒を飲みたいようで、それはまあ、僕もそうだった。
「ところで先生、上にいらしたんですか?」
「うん。ちょっとな。ビデオ見ててん」
「そうですか。僕もさっき、上を見に行ってたんですけどね」
それにしても、時間前に着いていたのなら、遅れて来ることもなかろうに……と、ちょっと思ったが、まあそれはともかく、懐かしさで胸いっぱい。
「この前も電話で話したように、あれから“K拳”の鍛錬をやっててね。僕も体がずいぶん変わってしまったよ」
「そんなに変わるものですか……」
冬の分厚い上着のせいで体つきはよくわからない。

まずは怪我の話。腕の傷跡を見せるとT先生は、「きみも色々あったんやなぁ」と、つぶやいた。僕はそれを、一言では表せない気持ちを深いところで察してくれたものかと思い、
「ええ、色々ありましたよ。人との諍いもね。水商売をやってると『裏の世界』みたいなところもあって、ろくでもない人間も居ますからね、殴り合いの喧嘩も幾つかしました。でも、武術をやってたおかげで切り抜けて来られましたよ。先生に習った武術のおかげですよ」
――と返した。
T先生は一瞬、目が潤んだような表情をした。僕の言葉が嬉しかったようだ。
まあ、最後の一言は半分リップサービスだったが、でも武術をやっていたおかげというのは本音だった。“何かが足りない”という思いを拭えない、中途半端なところまでしか習えていなかったわけだが、それでも、武の嗜みが無ければくぐり抜けて来られなかった場面が幾つもあった。
T先生は、笑みを見せたのも束の間、すぐさま仏頂面になって、淡々とした口調になった。面接官と話しているような感じだ。
僕は和やかな雰囲気にしたくて、T先生の様子に関係なく、愛想良く、悪く言えば少し馴れ馴れしいくらいに、場を取り繕うように話した。
たぶんT先生は、師匠の威厳とか、師匠と弟子との隔たりを意識するようなところがあったので、最初から緩い感じにならないでおこうとしていたのだろう。
少なくとも僕からはそのように見えて、
(あー。やっぱりちょっと面倒臭い人のままなのかも……)
と、思い始めていた。
ともかく、軽く挨拶程度の会話をして、たぶん10分程度で、店を出た。

駅前の、南北に伸びている通りは、天王寺から路面電車が南に向かって出ている。

画像はネット検索で見つけたものだが、2年ほど前のものらしい。僕がT先生と会ったときにはまだ、道沿いに昔からの古い商店が建ち並んでいた。
その道を東側(画像右側)に渡って、T先生は心持ち早い足取りで南の方(画面奥)に歩いて行く。店を物色している風でもある。
が、どこにもなかなか入らない。
「先生、目的の店があって歩いてるんですか?」
「うん、まあ、こっちの方に行けばどこなと入れるところあるやろ」
「…………」
しばらく歩いて、結局、古びた安酒場に入った。
広い店でもないのに、中には数十人の客が居て、その声が凄まじい騒音になっているほどの賑わいだった。
僕は、話が出来そうにないと思って、別の店にしませんかと言ったのだが、T先生が「とりあえずここに入ろう」と言って、入ることになった。
まずはビールを頼んで乾杯したが、やはりとても話せる状況ではない。
僕は中学の時に一度鼓膜が破れたことがあったせいか、明瞭で無い音声の聞き取りや、騒音の中での聞き分けが、たぶん普通の人よりも苦手だ。
T先生の声は大きい方では無く、時折ぼそぼそと喋ることもあるので、とてもじゃないがこんな中では聞き取れない。
けれど料理を頼んであるので、それを片すまで出られない。確か串カツとか、揚げ物があったんじゃなかったかな……。瓶ビールを2本ほど空けて小料理2、3皿を食うまで20分ほど、ほとんど話にならなかった。

店を出るとき、T先生が勘定を払おうとしたので、「いや僕が」と出そうとしたが、結局T先生が払った。
と言っても、2千円でおつりが来るほどだったが……。
「では、次は僕が」
ということで、TSUTAYAの方に戻ることになった。

実はTSUTAYAを出るときに、その近くにあるショットバーにたまたま前に入ったことがあったので、そこに行こうと誘ったのだが、気が向かなかったらしく、放浪の果てに入ったのが、さっきの店だった……。
どこか他に当てはありますか、と尋ねたが、特に無いとのことだったので、結局、僕が最初に誘ったショットバーに向かうことになった。

その途中で。

「ちょっとそこの道に入ろう。とりあえず“立ち方”を見せてみ」
前もって言われていたのだが、弓歩がどれくらい出来ているのか、まずは見たいとのことだった。
それで途中の路地に入ったのだが、たまたま人通りが途切れていただけで、すぐさま多くの人が通り過ぎていく。そりゃそうだ、繁華街だもの。
「一応、弓歩はちゃんと出来てるな」
「そりゃあ先生、前に何年もやってたわけですし……」
「きみがブランクあると言うからやんか」
「はは。まーそうですね。型もやりましょうか?」
「いや、それはまあ、ええわ。人も多いしな。とりあえず弓歩がちゃんと出来てることを確認できればそれでええから。次、行こか」

ショットバーは、小洒落た店で、カップル客がよく来そうな雰囲気だが、いい具合に空いていて話しやすい状態だった。
最初からここで良かったのに……。
T先生は、僕の弓歩を見て、これなら一から教えて手がかかるということも無さそうだと判断したらしく、「また一緒に稽古しよう」と言ってくれた。
僕はお礼を言って、あとは雑談に興じた。

T先生は、僕が水商売をやっていたから、色んな意味で経験豊富だと思ったらしく、S先生たちと話題に出たか何かで、『叶姉妹』のことを僕に尋ねてきた。
当時は叶姉妹がTVによく出ていたが、彼女たちが本当の姉妹ではなくユニットだということは、すでに世間に知られていたんじゃなかったか……。
「叶姉妹をどう思う? 本当にセレブやと思う?」
「さあ? 僕は芸能界に詳しいわけではありませんよ」
「そらそうやろうけど、きみの意見でええから」
「う~ん。僕が思うに、ですけど、たぶんそうでは無いでしょう。芸能人もピンキリで、派手な人は派手ですけどね。ただ、いい女には金持ちも群がるので、そういう意味ではセレブとの付き合いで熟れてきて、セレブの振る舞いができるようになっている、という面は、あるでしょうね」
「でもあの二人って、出てきたときからセレブっぽいやん? で、ずっとあんな感じなのが、不思議でしょうがないんやけどなぁ……」
「そういう演出なんでしょうね。そういう振る舞いも予め教育されてるか、先ほどのように、付き合いの中で洗練されてきてるか」
「そういう売り方というだけ?」
「強力なスポンサーが付いてるってことじゃないでしょうかね? 勝手な想像ですけど、僕からすれば“高級娼婦”って感じですよ」
T先生はハッとした顔をして合点がいったように、拍手。僕の無責任な想像での「高級娼婦」という言葉が、妙にしっくりきたようだった。
「ははは。確証なんてありませんよ。あくまで想像ですよ?」
「いやいや、何か今のはすごい納得できたわ。さすが!」
T先生は、自分が堅物だということや、遊びを知らないということを口にし、その後も時折、
「普通が一番面白くない」
――ということを漏らしていた。
そのせいか、ハメを外して生きているような、あるいは自由人のように見える、S先生に、強いあこがれのような思いがあったような気がする。
だからT先生は、S先生の影響を受けて、S先生を真似ているようなところがあった。それは若い頃からだったと思う。
このことは、たぶん、後々のT先生の振る舞いとも無関係では無い。
だが自由人という意味では劣っていない僕のことは、「経験豊富」と持ち上げておいて、常に下に見る、上から抑えつける、ということを、するようになるのだが、このときの僕は、酒とこんな会話で、和んだ気になっていた。

「ところで先生、携帯電話の番号やメールアドレスを教えていただいてもよろしいですか?」
「いや、持ってないんや」
「え? ……めずらしいですね?」
世間では一人一台が当たり前になりつつあった。この頃でも、持っていないのは、年寄りか高校生以下の子ども、あと専業主婦くらいだったろう。
「携帯電話って、何か嫌なんや」
「でも今のように普及している時代に持っていなかったら、色々と不便や不都合が生じるんやないですか?」
「いや。特に不便は感じへんなぁ」
「そうですか。ちなみに携帯電話の、どんなところが嫌なんですか?」
「だって捕まってまうやん」
「はは。それって、ご家族にですか、それとも仕事関係で?」
「どっちもや!」
僕は笑って流しながらも、内心ちょっと呆れた。40代の男が言うようなことではないだろう。
「でも先生、携帯電話を持ったからって、必ず出なければいけないわけではないですよ。立て込んでて出られないときは当然あるわけですから。都合が悪ければ電源を切っておくこともできますし……」
「まあ、とにかく、まだしばらくは持ちたくないねん」
T先生は、ほんのちょっとだが、むっとした顔をした。
僕は、他愛ない会話の一環のつもりだったのだが……。

それから、武術の稽古は、年明け早々、学校が始まって以降の最初の○曜日に、ということになった。
僕は、稽古スケジュールや月謝のことを切り出したが、第一回目の稽古日に今後のことを決めようと言われた。
(何でこの人はこういうことをもったいつけて先送りにするんだろう)
と思いつつも、僕は教えを乞う身。従うしか無い。

この日のT先生との会合は、わずかに興を削ぐ場面もあったが、概ねは和やかに、そしてT先生の機嫌も良く、時間が過ぎていった。
バーでは洋酒を中心に5、6杯ずつくらい飲んだ。
酒は、僕の方が強いかも知れなかった。
帰ろうとする頃にはT先生は、上機嫌の少しふらついた酔っ払いに、いい感じに出来上がっていた。
僕の前に拳を突き出して、
「きみは僕のこの拳に、何を聞きたいんや?」
と言った。
「そして僕に酒を奢って、何を得ようとしてるんや?」
――と。
僕はちょっと吹いてしまって、いやいや、そんな下心はありませんよ、と返した。
もちろん、“奥”といわれることを、習えるのなら、習いたい。
でもそれは、先のことだろう。
「先生、僕は今は、こうして再会できたことが嬉しいんです。そしてまた昔のように、一緒に武術の稽古をしたいだけですよ」

そのあとは、近鉄百貨店の地下を通って、地下鉄の改札口までT先生を送って、別れた。

他にも幾つか、この日に話したことはあるのだが、それらはまた別のときに、折を見て触れようと思う。

(つづく)

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