中国拳法、武術、格闘技など、徒然気ままに…

太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

鼻骨折 (2/2)

投稿日:2008年1月6日

最初は躊躇しつつ覗いてみた漫研だが、しばらくすると居心地のいい場所になった。
みんな平和で友好的なノリだし、ディープなアニメネタも僕は大体解ってしまう。
肝心の漫画も、僕はそこそこ描ける方で周りから認められていたし、後輩もなついてくれていた。

そんなある日のこと。
よく憶えていないが、この頃には部長が2年生の女の子に交代していて、その子が、たぶん“三題噺”のようなことをやろうとしていたのだったと思う。
ふと見ると、後ろの方の席でぽつんと一人だけ、黙々と漫画を描いているヤツが居た。
初めて見る顔のようだったので、
「あいつは?」
と後輩に訊くと、1年生で新入部員の“G”だという。
僕は、親切のつもりで、
「おーい。お前もこっち来いよ」
と親しみを込めて声をかけた。
しかし無反応…。
なんだ?と思って、僕はGの方へ近づいて行った。
「こっち来てみんなでやろうや」
と言うと、また無視して、ただ絵を描いている自分の手元だけを見ている。
さすがに僕もカチンと来て、
「おい、何で無視するんや?」
と言いながら、頭を軽くパシッと叩いた。
するとGは無言で立ち上がり、学生服の詰め襟を外し、ボタンを外し始めた。
(なんだなんだ?)
わけわからん。こいつ、やるつもりか?
と思いつつも、1年生と聞いていたし、こっちは喧嘩する気は無い。
「何やお前、やんのか?」
その間にも上着を脱いだ。
「やめとけ。お前、喧嘩してもな…」
僕の言葉には無反応のまま、次の瞬間、いきなりGの拳が飛んできた。
(あっ!)
と思ったときには、遅かった。
ガツンという感触とともに、自分の顔の真ん中がじゅわっと熱くなった。
すかさず2撃目が来ようとしていたが、そのときは僕も臨戦態勢になって動き始めた。
とにかく手を出さなければという思いで、がむしゃらに手数を出した。
その間に鼻血が湧いて来るのがわかった。
(くそっ!)
僕の拳は、当たるのだが、まともにヒットしない。
ともかく必死に動いた。
そのとき、
2年生の女子の一人が金切り声を上げた。

「やめて言うてるやんかぁっ!!」

喧嘩が始まったときにみんな集まって来たようだが、いきなり殴られて必死に応戦していたので、周りの声は耳に入らず、その金切り声でやっと気づいて止まった。
その間にGは何人かにしがみつかれて身動きが取れなくなった。
さすがに止めに来た者にまで手を出そうとはしなかったようだ。
金切り声を上げた女の子は、
「ここはみんなで楽しく部活やる場所やねん。喧嘩するんやったら外でやったらええやん!」
と、ややヒステリックに声を荒げた。
僕は、
「お前ら見てたやろ。オレはこいつを注意していきなり殴られたんやぞ!」
と言った。
そして、Gにしがみついている連中に、
「離したれや。外で決着つけて来るわ」
Gにも、
「お前もそれでええやろ。外行こうや」
と言った。
そして教室の出入り口の方へ歩き出した。
周りがぼそぼそと止めるようなことを言ったが、僕は気に留めなかった。
いきなり殴られた以上、決着をつけないと気が済まない。

部活に使っていた教室が校舎の3階の隅で、出入り口の外はすぐに非常階段だ。
そこから降りようとしてドアを開けると、いつの間にか大粒の雪が降り始めていた。
風に吹かれてあっという間に積もりそうな勢いだ。
階段を降りながら、
「何でこんなことに…」
と思った。
さっきまで漫研部員たちと和気あいあいやっていたのに、一瞬でこうだ。
それにGは強い。
(何で1年生がこんなに…?)
いきなり飛んできた拳は見えなかったし、あっと思った瞬間には自分の顔面に到達していた。
Gが手を出してくるまでは、相手をなめていたし、仮に手を出してきても手加減してやろうというくらいのつもりでいた。
始まってからの手数は僕の方が多く、Gの顔はあちこちが切れたり蒼くなったりしていた。
僕がまともに喰らったのは最初の一発だけだが、このダメージが大きい。
よほど引き締めてかからないと、負けてしまうかも知れない…。

そんなことを思いながら降りていく階段の途中で、
「先輩…」
Gが初めて口を開いた。
「?」
振り返ると、神妙な面もちで、
「もうやめましょう。オレが悪かったです。スミマセンでした」
と言った。
「今さら何言うてんねん。お前が手ぇ出して始まったんやろ。どういうこっちゃ?」
「すみませんでした…」
何人かが心配してついて来ていて、
「もうええやん」
「hideさん、許したりぃや」
などと口を挟んだ。
僕はGを見て、
「ほんなら、自分の非を認めるんやな?」
と聞くと、Gは、
「はい。すいませんでした」
と頭を下げた。
僕は拳をGの顔に持っていって、コツンと小突いて、
「わかった。じゃあ教室に戻ろう」
と言った。

Gはほっとして、みるみる懐っこい顔になった。
「先輩、強いなぁ!オレこんなにやられたん初めてっすよ」
「アホなお世辞言うな。お前の一発喰ろうてオレの方がダメージ大きいわ」
そう言ってトイレに行き、鏡を見てびっくり。
殴られた鼻が思い切り腫れていた。
ティッシュを詰めて血止めしているのも悲惨だが、鼻をやられて涙腺が緩んで涙目になっているのが、何だか情けない。

教室に戻ると、隅の方でGと2人にしてもらって話をした。
「いや先輩、ホンマに強いですって。オレ、これでも中学からボクシングやってて、自信持ってたんですけど、こんなに殴られたん初めてっすよ」
「もうええって…」
それより、Gが何故ああいう態度を取ったのかが気になった。
訊くと、何やら嫌なことが続いてナーバスになっていたそうだ。
学年もダブっていて、実際には1つ下だった。
「…で、それが何で謝る気になったんや?」
と訊いた。
「先輩、オレが止められて身動き取れんようになったとき、チャンスやったのに手ぇ出さんかったでしょ。それで2人で改めて外で決着つけようなんて、そんな人は滅多におらん思うて、ホンマに自分が悪かったって気になったんです」
「そ、そうか…」
そういうところを見るヤツも少ないと思って、僕はちょっと気を良くした。
「先輩も空手か何かやってはったんですか?」
「まぁ、空手をな。大したこと無いけどな…」
「でもオレ、ホンマにこんなにやられたこと無かったから、びっくりしました」
「それは強いヤツに当たったことが無かっただけやろ」
「う~ん。そうかなー。ちょっと前に食堂で喧嘩あったん知りません?」
「ああ。普通科のヤツが誰かにカラんで逆にやられてしまったらしいな。噂になってたわ。やられたヤツも結構強いっちゅう話やったけど、相手知ってんのか?」
「それ、やったのオレなんすよ」
「ナニ?」
そういえばあれから2~3週間経つ。
ということは、コイツ、停学明け?
「お、お前やったんか!」
「はい」
「アホ!それやったら何で最初からそう言わんのじゃ!」
「…言うたらどうなってたんすか?」
「オレ、謝ったやんけ」
「ははは」
そんなやりとりをして、Gとは仲良くなった。

Gは、部活ではなく、ジムでボクシングをやっていて、
「プロを目指すつもりでやらんか?」
と声をかけてもらったこともあったそうだ。
しかし本人は陸上競技が好きで、陸上部に入って頑張っていたが、何かの事情でやめてしまったらしい。
故障が原因だったのか、人間関係諸々だったのか、聞いた気もするのだがよく憶えていない。
憶えているのは、失恋の痛手で相当悩んだ時期があったということ。
一度ウチに遊びに来て、そういう打ち明け話を聞いたことがある。
もしかしたら、学年を1年ダブってしまったのも、陸上部をやめてしまったのも、そういうことが原因だったかも知れない。
この時期、僕も同様のことで悩んでいたから、それはとても共感できた。

それにしてもこの喧嘩で、ボクシングのパンチの怖さというものを思い知らされた。
よく、
「ボクサーは足が弱い。距離を取って足を攻めればいい」
というのが対ボクサーのセオリーとして言われたりするが、相手が何をやっているのか知らなくて、突然始まったとき、飛んできたのがボクシング経験者のパンチだったら、そう簡単に避けられるものではないだろう。
油断していたとはいえ、いい教訓になった。

Gはこの喧嘩のあと、僕にとても気を遣ってくれるようになり、従順で可愛い後輩になった。
卒業後、あるときGに誘われて漫研を覗きに行ったことがある。
そのときはGが3年生になっていて、僕が知っている後輩はGと同学年の数人だけだった。
僕がお金を出して、
「誰かジュースとお菓子でも買って来いよ。みんなでおやつにしようぜ」
と言ったのだが、誰も反応がイマイチ。
先輩後輩の序列が崩れ、個人主義が横行し始めた頃なのかも知れない。
まぁ、おたく文化自体がそうなのかも知れないし、逆にそういうのが平和なのかも知れないのだが…。。
3年生に指示されて渋々何人かが買いに出て、その後も盛り上がらないままでいると、Gが腹を立てて、
「お前ら、先輩がせっかく遊びに来てくれて、おやつ代まで出してくれてんのに、何やその態度は!」
と怒った。
僕がそれをなだめると、何度も何度も僕に謝っていた。

ついでだが、僕の記憶の中にあるGの顔は、何となく格闘家の桜庭和志に似ている。
あんなにガタイがいいわけではなくて、桜庭を細くして面長にしたような感じだが。
なので、桜庭を見ると、Gを思い出して懐かしくなる。

さて、悲惨な目に遭った僕の鼻だが。
家に帰ってから腫れはますます酷くなって、鼻が折れて歪んでいるのがはっきりと判った。
義父に言うと、
「折れとんのやろ。軟骨やからすぐ折れるんや。すぐくっつく。その前に自分で元の位置に動かせ」
と言われて、病院に行かせてもらえなかった。
仕方なく、僕は鏡を見て、痛みを堪えて涙ウルウル目になりながら鼻をつまんで元に戻そうとした。
微かに動く感触が判る。。
何度も何度も、ちょっとずつそれを繰り返して、元に戻した。
何日も腫れが引かず、その間はマスクをして過ごした。

それから。
前半に登場したT中とT宮は、僕の武術経験上まだ関わりを持つのだが、その話はまた稿を改めて。。

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