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太極拳ってど〜よ!?

徒然エッセイ

アヤシイ気功師 Part2

投稿日:2009年2月9日

訪問した約束の時間は、午後1時くらいだったか…。
前日の酒が残っている上に、眠い…。
どんな気功を行っているのか多少興味はあったものの、さすがにこんな日には辛い。
道中、行ってすぐ帰るための言い訳を考えていたが、Aさんとはせっかく仲良くなったばかりだし、世話になってもいるので、そういうわけにもいかないなぁ…と思い直した。
会の事務所兼集会所は、マンションの一室だった。
10階以上ある少し高級そうなマンションで、部屋は3LDKくらい?
西梅田という北新地に近いところで、場所柄、家賃も高そうだった。

部屋の前に行くとドアを開放していたので、
「すみませ~ん」
と声をかけると、事務スタッフのような40代後半くらいの女性が出てきて、部屋に案内してくれた。
Aさんが居なかったので、その女性に訪ねると、
「先生はもう少し後で来られると思います」
と言って、その後小声で、
「たぶん昨日も飲みに行ってはると思いますので…」
僕は、
(なんだ緊張して時間通りに来て損した(笑))
と思って、少し気が和らいだ。
ちなみに、「先生」という呼び方だったかどうか、よく憶えていない。
まー「尊師」とかじゃなかったと思うが、一応ここでは「先生」としておく。

通された6畳ほどの部屋に入ると、そこには敷き布団に仰向けに寝ている30歳前後の男性が1人。
その男性の首筋あたりに、手をかざして何やら念を込めている風な、やや年輩の女性が1人。
(ふぅむ…。これが治療なのかな…?)
先ほどの事務スタッフのような女性は、僕にお茶を出してくれると、彼女も治療に加わった。
そして奥からもう1人、同じような年代の女性が出てきて、計3人で治療に当たった。
3人ともフツーの主婦っぽい。
勝手な印象で言えば、スーパーでレジ打ちしているおばちゃんや、小さい会社の事務のおばちゃん…といった感じで、いかにも下町の庶民風…。
(この人たちが気功治療をする上級者…??)
患者らしき男性は、時々女性たちに指示されて体の向きを変えたりしながら、ただただ時間が過ぎるのを待っているといった風だ。
そして3人がかりで、首の周り、胸や背中、腕など、あちこちに手をかざしている。
(いったい何を治療しているんだろう?)

静かで重苦しい時がノロノロと停滞気味に過ぎていく…。

ようやく女性の1人が時計を確認して、
「ちょっと休憩入ります」
と言って、中断した。
僕も時計を見たが、僕が部屋に入ってから15分くらいか…。
何と長い15分…。
すると、今まで黙っていた男性が口を開いた。
「あの…途中ですが、今日でこの治療を最後にしようと思ってるんです」
女性3人は一瞬、
「えっ!?」
という顔をしたが、すぐさま男性に事情を尋ねた。
男性は努めて冷静に自分の思いを話し始めた。

男性はアトピー患者だった。
それが判った時点で僕は内心かなり驚いた。
少し前、たまたま、ニュースでだったか人伝にだったか忘れたが、アトピー治療を謳った詐欺的ビジネスの話があって、それが頭をよぎったからだった。
アトピーとは、アトピー性皮膚炎の通称で、痒みを伴うアレルギー性の皮膚疾患だ。
アトピー性皮膚炎を根治する治療法は今でもまだ見つかっていないらしい。
よく聞くステロイド剤は、症状を緩和する作用はあるものの、人によってはリバウンドを繰り返し、結局は悪化していくが、それでも使わずにいられない悪循環を招くという。
そのため様々な民間療法が飛び交い、時に法外な料金を請求されたりするそうだ。
(※これについては、僕の理解が間違っているかも知れないので、興味ある人はそれぞれ個々に調べてみて欲しい)

とにかく、男性はかなり重度の症状に苦しんでいた。
話の中、治療前から今までの間に少しも改善されていないと言いながら、腕をまくったり、首まわりを見せたりした。
改善云々は僕には判らないが、確かにひどい皮膚の状態だった。
確か、Aさんのところでの治療の期間は3ヶ月単位で、その間はステロイド剤の使用も中止するように言われたそうだ。
そのため男性はひどい痒みに耐えながら気功治療に一縷の望みをかけてきた。
そして治療は2ヶ月が過ぎ3ヶ月目に入っていた。

男性は、
「…まぁ、2ヶ月や3ヶ月で劇的に改善されるとは思っていませんが、まったく何の変化も感じられませんし、ステロイドも止められて、苦しいし、この先どうにかなるとは思えないんです」
と、感情を抑えながら、声を震わせて言った。
女性たちは説得を試みた。
「でもまだ契約の治療期間は約1ヶ月残っていますし…」
「うん、それはもういいです。返金は求めません!」
「信じることも大切ですよ。私たちの祈りと、あなたの治癒を願う気持ちが、治療を成功させるために必要なことでもあるんです」
「そうかも知れません。私の気持ちが足りないと言われるのであれば、そうなのかも知れません。でも私はこの方法を信じることができなくなりました。だからもういいです」
「もうすぐ先生が来ますから、その時点でもう一度相談されては…?」
「先生が来ても変わりません! だから、もういいんです! 返金も求めませんし、文句を言う気もありません。ただやめたいだけです。それだけです!」
「……………」
女性たちは言葉を失った。
男性も、さすがに最後の方は少しばかり声を荒げてしまった。

それにしても凄まじい場面に遭遇してしまったものだ。。
まさか初めてお邪魔していきなりこんな展開になるとは…。。。

と、そこへAさん到着。

事情を聞くとAさんは、やっぱり男性を説得し始めた。
男性はうんざりな顔つきで、またふりだしに戻ってしまった。
Aさんは何でもない気さくな言い方で、アフリカだかアマゾンだか、どこかジャングルの奥地にある何とかいう樹の葉の話をし始めた。
「その葉っぱは原住民がいろんな病気や怪我の治療に使っててな。たぶん皮膚の治療にも役立つと思うんや」
(うう。その根拠は何なんだ…!?)
「まずはその葉っぱを取り寄せて、試験的に1枚どこか、例えば腕に貼って、そこに“気”を送って治療を試してみたいんや。効果があればそこから他の箇所へも拡げていけばええやろ。試験期間のお金はええから、ちょっとそれを試させてもらえんかな?」
男性はほんの少し揺らいだ。
「でも、その間、ステロイドはやっぱり使えないんでしょ?」
「そらそうや。併用してたらどっちが効いたのかわからんし、ステロイドのせいでオレらの治療の効果が薄れる可能性もあるからな」
「……………」
「それか…どうしてもステロイド使わずにおれんのやったら、ひとまず使ってもらって、オレらが治療を施す患部にだけは使わずに我慢してもらう、というのでもええけどな」
その言葉が逆効果となり、男性は再び意志を固めた。
「いや、やっぱりいいです。治療は今日までで結構です」

しかし、その後も少しばかり問答が続き、ひとまず今日の後半の治療は受けて、とりあえず残りの約1ヶ月、答えを保留にしてはどうか、ということになった。
男性も面倒になったようで、とりあえず保留に同意して、あとは黙った。
そしてそれからまた20分だったか、30分だったか、今度はAさんも加わって気功治療。

また静かで重苦しく、さらに気まずい時が………。

その間に3人の男性が揃ってやって来た。
聞いていた歯科医だ。
たぶんみんな50代くらいだろう。
私服姿とはいえ、医者にしては何だか貧乏そうで、どちらかと言えば儲かっていない整体師みたいだ。

後半の治療が終わると、Aさんは、
「どう? オレがやるとちょっと違うやろ? 遅れてきたからその間、他のスタッフの治療で物足らんかったかも知れんけど、そこはもうちょっと考えるから、もう一度よく検討してみて?」
「…はあ」
男性は力無く返事して、言えばまた長くなるから黙っておこうという風だった。
「まー姫路からここまで通うんはしんどいと思うけど」
と言ってAさんは人の善い笑顔を見せた。
(げっ。この人、姫路からわざわざ来てるんか。可哀想になぁ…)
僕はまぁ…部外者なのでこの男性とはまったく言葉を交わさなかったが、気の毒に思いながら、男性が上着を着て出ていくのを目で見送った。

次回、完結編。
Aさんの気功治療の内容。

(Part3に続く)

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